Excel業務効率化のためのAI活用完全ガイド:ダミーデータの作成技術

ダミーデータの作成 マクロのテスト用を説明する女性
目次

ダミーデータの作成

Excel業務の自動化、特にマクロ(VBA)の開発において、最も危険な行為の一つが「本番データを使ったテスト」です。開発中の不安定なコードを、顧客名簿や売上台帳といった実データで実行することは、データ消失や情報漏洩といった取り返しのつかない事故を招く恐れがあります。しかし、テストのためだけに何百件もの架空のデータ(ダミーデータ)を手入力で作るのは、それだけで膨大な時間がかかります。

そこで活躍するのがAIです。本記事では、AIを活用して、個人情報を含まない安全でリアルなダミーデータを瞬時に大量生成するテクニックを解説します。「テスト用に100件の顧客リストを作って」と頼むだけでなく、エラーチェック用の「汚れたデータ」を含めたり、CSV形式で出力させたりといった高度な生成手法を学びます。これにより、あなたはリスクを完全に排除した安全な環境(サンドボックス)で、思う存分開発とテストを行えるようになります。

なぜ「開発者」は本番データでテストをしてはいけないのか

開発者がマクロや複雑な関数を構築する際、最初に用意すべきなのは「テスト環境」です。多くの現場では、時間の節約のために本番データのコピーを使ってテストを行おうとしますが、これは非常に高いリスクを伴います。まず、操作ミスによってオリジナルデータを上書きしたり、削除してしまったりする「データ破壊」のリスクがあります。VBAによる変更はExcelの「元に戻す」機能が効かないことが多いため、一度のミスが致命傷になります。

さらに深刻なのが「情報漏洩」のリスクです。例えば、請求書を自動作成してメールで送るマクロをテストしている最中に、誤って実在の顧客にテストメールを送信してしまったという事故は後を絶ちません。また、クラウド型のAIサービスを利用する場合、学習設定によっては入力した本番データがAIの学習に使われてしまう可能性もゼロではありません。企業コンプライアンスの観点からも、個人情報や機密情報を含むデータをそのまま開発プロセスに乗せることは避けるべきです。

ダミーデータを使用することは、これらのリスクを物理的に遮断する最も確実な防壁となります。架空のデータであれば、何度消しても、間違って送信しても、実害は一切ありません。この心理的な安全性こそが、大胆な試行錯誤を可能にし、結果として開発スピードと品質を向上させます。プロの開発者は、コードを書く前にまず、安全に失敗できる「遊び場」を作ることから始めます。その遊び場を構築するための最強のツールが、生成AIなのです。

従来の「手作りダミーデータ」の限界とAIによる革命

従来、ダミーデータを作成する方法といえば、「テスト太郎」「テスト次郎」といった名前を手入力するか、RAND関数を使って無機質な乱数を発生させるくらいしかありませんでした。Web上のダミーデータ生成サイトを利用する方法もありますが、項目が固定されていたり、日本の住所形式に対応していなかったりと、柔軟性に欠ける場合が多くありました。何より、テストデータの作成自体に時間がかかりすぎて、本末転倒になることが常でした。

AIの登場は、この状況を一変させました。AIは単なるランダムな文字列ではなく、「文脈を持ったリアルなデータ」を生成できます。「日本の架空の住所」「それらしい会社名」「整合性の取れた電話番号」などを、無限のバリエーションで作り出せるのです。さらに、「IT業界の企業名にして」「20代から30代の女性を多めにして」といった、ターゲット層に合わせたデータの「重み付け」も自由自在です。

これにより、開発者は「データを作る作業」から解放され、「どのようなデータが必要か」を定義する作業に集中できるようになりました。必要なのは、数行のプロンプト(指示文)だけです。AIはあなたの専属のデータ入力オペレーターとして、24時間365日、文句も言わずに数千行のデータを打ち込んでくれます。この革命的な生産性向上を利用しない手はありません。

プライバシー保護の鉄則:AIに「実データ」を見せない

AIにダミーデータを作らせる際、絶対に守らなければならないルールがあります。それは、プロンプトの中に「見本としての実データ」を含めないことです。「こういうデータを作って」という例示のために、実際の顧客名や電話番号をAIに入力してしまうと、その情報がネットワークを通じて送信されてしまいます。これはセキュリティポリシー違反となる可能性があります。

代わりに、「マスキング(抽象化)」という技術を使います。例えば、「山田太郎」という名前の代わりに「[氏名]」や「架空の日本人名」、「090-1234-5678」の代わりに「[電話番号]」や「携帯電話番号の形式」といった言葉でデータの構造を伝えます。AIが必要としているのは、具体的な中身ではなく「どのような種類のデータが、どのような形式で並んでいるか」というスキーマ(構造情報)です。

例えば、「A列には日付(yyyy/mm/dd形式)、B列には顧客ID(Aから始まる5桁の英数字)、C列には氏名が入ります」と指示すれば、AIはそのルールに従って完全に新しいデータを生成します。実データを一切渡さずに、実データと同じ構造のダミーデータ手に入れること。これが、セキュリティ意識の高い開発者の基本作法です。

基本プロンプトの型:列構成とデータ量を定義する

それでは、実際にAIにダミーデータを作成させるためのプロンプトの書き方を見ていきましょう。基本となるのは、「出力形式」「列の定義」「データ量」の3要素を明確にすることです。

プロンプト例: 「あなたはデータ作成のプロフェッショナルです。Excelマクロのテストに使用するためのダミーデータを作成してください。 #出力形式 CSV形式(カンマ区切り) #データ量 20行 #列の構成

1. ID:1001から始まる連番

2. 氏名:日本人の架空の氏名(漢字)

3. 氏名カナ:氏名のフリガナ(全角カタカナ)

4. 部署名:『営業部』『開発部』『総務部』のいずれかからランダム

5. 入社日:2010年1月1日から2024年12月31日までのランダムな日付

6. 売上見込み:10,000から500,000までの数値をランダムに(1000単位)」

このように、各列に何が入るべきかを具体的に指示します。特に「漢字とフリガナの整合性」や「部署名のリスト指定」などは、従来の乱数生成では難しかった部分ですが、AIならば文脈を理解して適切に生成してくれます。最初は20行程度で生成させ、形式が正しいことを確認してから、必要に応じて追加生成を依頼するのがコツです。

「汚れたデータ」の生成:マクロの耐久性をテストする

開発者として一歩進んだダミーデータの作り方は、あえて「汚れたデータ(異常値)」を含めることです。実務の現場では、きれいなデータばかりが来るとは限りません。全角と半角が混在していたり、必須項目が空白だったり、数値欄に「不明」という文字が入っていたりします。こうしたデータが含まれていてもマクロがエラーで止まらないようにするためには、テスト段階で意図的にこれらのケースを混入させる必要があります。

プロンプトに以下の指示を追加してみましょう。 「#異常値の混入ルール ・全体の10%の行で、氏名の姓と名の間にスペースを入れてください(全角・半角ランダム)。 ・『売上見込み』列のデータのいくつかを空白、または『未定』という文字列にしてください。 ・『ID』列に、重複した番号を2組ほど意図的に作ってください。」

このように指示することで、AIはエラーの種を含んだリアルな「悪いデータ」を作ってくれます。このデータを使ってマクロを実行し、エラー処理(On Error Resume Nextなど)が正しく機能するか、重複排除ロジックが動くかを確認します。優等生的なデータだけでなく、問題児的なデータも作れることこそが、AIをテストパートナーにする最大のメリットです。

出力形式のバリエーション:CSV、JSON、Markdown

AIが生成したデータを利用する方法はいくつかあります。最も汎用性が高いのは「CSV形式」です。プロンプトで「コードブロックの中にCSV形式で出力して」と指示すれば、カンマ区切りのテキストが出力されます。これをメモ帳に貼り付けて「test.csv」として保存すれば、Excelでそのまま開くことができます。

また、少量のデータであれば「Markdownの表形式で出力して」と指示するのも便利です。AIのチャット画面上に表として表示されるため、マウスでドラッグしてコピーし、Excelのシートに直接貼り付けることができます。視認性が良く、直感的にデータの妥当性を確認できます。

さらに、Web APIとの連携などを想定したマクロを作る場合は、「JSON形式」や「XML形式」での出力も可能です。「このデータをJSONオブジェクトの配列として出力して」と頼めば、構造化されたデータが得られます。開発するシステムの要件に合わせて、最適なフォーマットをAIに指定しましょう。

ビジネスロジックを反映した高度な生成:重み付けと相関関係

単なるランダムではなく、ビジネスの現実に即した「傾向」を持たせたデータを作ることも可能です。例えば、売上データを生成する際、「平日は売上が少なく、土日は売上が多い傾向にしてほしい」といったリクエストです。

プロンプト例: 「日付と売上金額のダミーデータを作ってください。ただし、日付が土曜日と日曜日の場合は、平日に比べて売上金額が平均して1.5倍になるように調整してください。」 「商品Aは20代に人気、商品Bは50代に人気という傾向を反映して、購入者年齢と購入商品のペアを作ってください。」

AIは一般的な知識として、あるいは指示された論理に従って、データ間の相関関係(コリレーション)を作り出します。これにより、マクロによる集計結果が正しいかどうかだけでなく、分析ツールとしての有効性を検証するための、より実践的なテストデータを用意することができます。

大量データ生成の壁と回避策:スクリプト生成のアプローチ

AIのチャット画面で生成できるテキスト量には限界(トークン制限)があります。そのため、「1万行のデータを作って」と頼んでも、途中で切れてしまったり、拒否されたりします。AIに直接データを作らせるのは、せいぜい50〜100行程度が限界です。

では、数千、数万行のテストデータが必要な場合はどうすればよいでしょうか。答えは、「データを生成するVBAコード」をAIに書かせることです。 「氏名、日付、ランダムな数値を生成して、Sheet1に10,000行書き込むVBAマクロを作成してください。氏名はランダムな組み合わせで生成し、処理速度を考慮して配列を使用してください」と指示します。

AIは、乱数や配列を組み合わせて大量のデータを一瞬で生成するマクロを記述してくれます。開発者はそのマクロをExcelに貼り付けて実行するだけです。これにより、AIの出力制限に縛られることなく、ビッグデータ級のテスト環境を構築できます。これは「魚を貰うのではなく、魚の釣り方を教わる」アプローチと言えます。

生成データの検証:AIによるセルフチェック

AIが作ったデータだからといって、盲目的に信用してはいけません。稀に、指示した条件(例えば「重複なし」など)が守られていない場合があります。データを受け取った後、念のためにAI自身に検証させる、あるいはExcelの機能を使って検証するプロセスを挟みましょう。

AIに対して「今出力したデータの中に、IDの重複や、日付フォーマットの誤りがないか確認してください」と追加で問いかけます。あるいは、生成されたデータをExcelに貼り付けた後、「条件付き書式」や「重複の削除」機能を使って、データの整合性をクイックにチェックします。

また、数値データの範囲や平均値が意図した通りになっているか、オートカルク機能(ステータスバー)で確認するのも良い習慣です。開発者は常に「データは間違っているかもしれない」という疑いの目を持ちつつ、効率的に検証を行う必要があります。

VBA開発の準備完了

ここまでで、AIを活用して安全かつ高品質なダミーデータを作成する方法を学びました。あなたの手元には今、本番データと全く同じ構造を持ち、かつ個人情報のリスクがゼロで、さまざまなエラーケースを含んだ完璧なテスト用ファイルがあるはずです。

このファイルさえあれば、どんなに破壊的なマクロを書いても怖くありません。行を削除しようが、シートを消そうが、またAIに頼んで数秒でデータを再生すれば良いだけです。この「失敗のコストがゼロ」という環境こそが、プログラミング学習と開発における最強の武器です。

次からは実際にAIにVBAコードを書かせ、業務を自動化していくステップに入ります。関数だけでは実現できなかった複雑な処理も、安全なデータとAIのサポートがあれば、恐れることなく挑戦できます。Excelを開き、AIと共に開発者としての第一歩を踏み出しましょう。

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