基本構文(変数・日本語化)の活用
AIにVBAマクロを作成させる際、多くの人が直面する心理的な壁が「生成されたコードが英語ばかりで意味不明」という点です。プログラミングに慣れていない人にとって、英語の羅列は恐怖の対象であり、中身がブラックボックス化したまま使うことへの不安につながります。しかし、AI時代における開発手法は、この常識を覆しました。AIに対して「変数名は日本語にしてください」とたった一言指示するだけで、コードは劇的に読みやすくなり、私たち日本人にとっての「意味の通じる文章」へと生まれ変わります。
本記事では、あえて日本語の変数名を多用する「和風スパゲティコード」と呼ばれるアプローチを肯定的に捉え、その活用方法とメリットを解説します。可読性を極限まで高めたコードを生成させることで、変数やループ、条件分岐といったVBAの基本構文への理解を深め、自分自身でメンテナンス可能な「開発者」としてのスキルを確立しましょう。
なぜVBAマクロは「怖い」のか:英語変数による認知負荷の壁
ExcelのVBA(Visual Basic for Applications)を学ぼうとして挫折する最大の要因は、コードが「英語」と「記号」で構成されていることにあります。日本人の脳は、アルファベットの羅列を見た瞬間、それを言語情報として処理する前に「記号」として認識してしまいがちです。たとえば、Dim salesAmount As Long という記述を見たとき、プログラマーなら「売上金額を入れる変数だな」と瞬時に変換できますが、初心者には「何か難しい命令文」に見えてしまいます。
この「英語の壁」が、コードの中身を確認しようとする意欲を削ぎ、結果として「AIが作ったから動くはず」という盲目的な利用(ブラックボックス化)を招きます。しかし、業務で使うツールである以上、中身がわからないものを動かすのはリスクがあります。エラーが起きたとき、仕様変更が必要なとき、中身がわからないツールは即座に「ゴミ」と化してしまうからです。
そこで提案したいのが、「コードの日本語化」です。VBAは、実は変数名やプロシージャ名(マクロの名前)に日本語を使うことが許されています。これを活用し、Dim 売上金額 As Long と書かれていれば、誰でもその意味を一瞬で理解できます。認知負荷を下げ、コードへの恐怖心を取り除くこと。これが、持続可能なシステム開発の第一歩です。
「和風スパゲティコード」の再評価:可読性こそが正義
プログラミングの世界では、日本語の変数名を使うことは長らくタブー視されてきました。英数字のみで記述するのが「美しいコード」であり、日本語が混じったコードは「ダサい」「互換性が心配」と言われることがありました。しかし、AIによる自動生成が主流となった今、その価値観は変わりつつあります。一部のコミュニティでは、日本語をふんだんに使ったコードを親しみを込めて「和風スパゲティコード」と呼び、その圧倒的な可読性を評価する動きがあります。
ここで言う「スパゲティ」は、複雑に絡み合った悪いコードという意味ではなく、日本人の口に合う(目に馴染む)という意味でのポジティブな再定義です。私たち開発者の目的は、プログラミングコンテストで優勝することではなく、目の前の業務を効率化し、チームメンバー全員がそのツールを使いこなせるようにすることです。
もし、あなたのチームメンバーがVBAに詳しくないとしても、日本語で書かれたコードなら「ああ、ここで消費税を計算しているんだな」と推測できます。これにより、属人化を防ぎ、チーム全体でのメンテナンスが可能になります。AI時代において、可読性は「美学」ではなく「機能」なのです。
プロンプトエンジニアリング:AIに日本語変数を強制する
AIは通常、学習データの多数派である「英語の変数名」を使ってコードを生成しようとします。放っておくと i, j, k, strTemp といった無機質な変数が並びます。これを防ぐためには、プロンプト(指示文)の中で明確に「制約」をかける必要があります。
具体的には、以下の文言をプロンプトの「制約条件」セクションに必ず含めてください。 「変数名、定数名、およびプロシージャ名は、内容が直感的に分かる『日本語』を使用してください。」
この指示があるだけで、AIの出力は劇的に変化します。例えば、ChatGPTやGeminiなどのAIは、この指示を忠実に守り、Sub CalculateRevenue() ではなく Sub 売上計算処理() と書き出し、Dim lastRow ではなく Dim 最終行 と定義してくれます。特に最近のAIモデルは文脈理解力が高いため、「日本語で」と伝えるだけで、単なる直訳ではなく、業務内容に即した自然な日本語名を選定してくれる傾向があります。
比較検証:英語コード vs 日本語コードの視認性
実際に、同じ処理を行うコードを英語変数と日本語変数で比較してみましょう。例えば、「A列の最終行までループして、値が100以上なら赤色にする」という単純な処理です。
【英語変数の場合】
Sub HighlightCells()
Dim i As Long
Dim lr As Long
lr = Cells(Rows.Count, 1).End(xlUp).Row
For i = 1 To lr
If Cells(i, 1).Value >= 100 Then
Cells(i, 1).Interior.Color = vbRed
End If
Next i
End Sub
初心者には lr が何を指すのか、i が何をしているのか、パッと見では分かりにくいでしょう。
【日本語変数の場合】
Sub セル色付け処理()
Dim 行番号 As Long
Dim 最終行 As Long
最終行 = Cells(Rows.Count, 1).End(xlUp).Row
For 行番号 = 1 To 最終行
If Cells(行番号, 1).Value >= 100 Then
Cells(行番号, 1).Interior.Color = vbRed
End If
Next 行番号
End Sub
いかがでしょうか。日本語変数の方(和風スパゲティコード)は、コードを読むというより「文章を読んでいる」感覚に近いはずです。「1から最終行まで繰り返す」「もしセルの値が100以上なら」というロジックが、変数の名前を見るだけで脳に入ってきます。この「一目瞭然」な状態を作ることが、開発者としての負担を劇的に減らします。
変数(Dim)の理解:日本語化で「データの箱」をイメージする
VBAには Dim という命令で変数を宣言するルールがあります。これは「データを入れる箱」を用意する作業です。英語の教科書では Dim x As Integer のように説明されますが、これでは x に何が入るのかイメージできません。
AIに日本語コードを書かせると、ここが Dim 顧客名 As String や Dim 請求合計額 As Currency となります。これなら、「ああ、ここには文字が入るんだな」「ここはお金の話だな」と直感的に理解できます。
開発者として覚えておくべきポイントは、「Dim 〇〇 As △△」は、「〇〇という名前の箱を、△△専用(数字用や文字用など)として用意する」という意味だということです。AIが生成したコードの中に Dim が出てきたら、それは登場人物紹介のようなものだと捉えてください。日本語化されていれば、どんな登場人物がこれからの劇(マクロ)に参加するのか、台本(コード)の冒頭を見るだけですぐに把握できます。
繰り返し処理(For/Next)の解読:日本語で「範囲」を掴む
VBAのパワーの源泉は「繰り返し処理(ループ)」にあります。しかし、For i = 1 To n という構文は、初心者にとって最初の難関です。i が増える? n って何? と混乱しがちです。
これをAIに日本語化させると、For 現在の行 = 1 To データの最終行 となります。これなら、「1行目から最後の行まで順番に見ていくんだな」と、処理の「範囲」と「流れ」が手に取るように分かります。
さらに、Next 現在の行 という記述を見ることで、「ここで次の行に移るんだな」という区切りも明確になります。ループ処理はマクロの心臓部です。ここを日本語変数にしておくことで、無限ループなどのバグが発生した際も、「今、何行目を処理しているときに止まったのか」を発見しやすくなります。AIにはさらに、「ループの中で何をしているかコメントも入れて」と指示すれば、解説付きの完璧な教科書コードが出来上がります。
条件分岐(If/Then)の可視化:日本語で「ルール」を語らせる
「もし〇〇なら××する」という条件分岐も、プログラミングの基本です。英語コードでは条件式が複雑になると、If (x > 0 And y < 5) Or z = 1 Then のように暗号めいてきます。
日本語変数を使うと、これが If (売上 > 0 And 在庫 < 5) Or フラグ = 1 Then のようになります。ビジネスロジック(業務ルール)がそのままコードに現れるのです。これにより、「この条件設定は業務的に正しいのか?」というレビューが容易になります。
AIにコードを書かせる際、「条件分岐が複雑になる場合は、条件を変数に格納して読みやすくしてください」と指示するのも有効なテクニックです。するとAIは、
Dim 在庫不足フラグ As Boolean
在庫不足フラグ = (在庫数 < 発注点)
If 在庫不足フラグ Then ...
のように、条件判定部分自体を日本語の意味ある塊として定義してくれます。ここまでくれば、コードはもはや仕様書そのものです。
コメントの活用:コードを「読む」から「解説を聞く」へ
日本語変数の活用に加えて、AIに対するもう一つの重要な指示が「コメントの記述」です。「コードの各行に、初心者にもわかるように日本語でコメントを入れてください」と依頼しましょう。
VBAでは '(シングルクォート) の後ろに書かれた文字はプログラムとして実行されず、メモ(コメント)として扱われます。AIはこの機能を使い、コードの意図を解説してくれます。
' 請求書シートの宛名を書き換える
Sheets("請求書").Range("A1").Value = 顧客名
このように、処理の直前に日本語の解説が入ることで、コードと日本語の対応関係が学べます。これは、あなた自身がVBAを学習するための最高の教材になります。他人の書いたコードではなく、自分がやりたい業務のために書かれたコードで学ぶことほど、効率的な学習方法はありません。
AIモデルによる対応差:ChatGPTとGeminiの「日本語」への適応度
AIモデルによって、日本語コード生成の「性格」には多少の違いがあります。 ChatGPTは、指示に対して非常に忠実で、変数名を日本語にする指示も完璧にこなす傾向があります。文脈を維持する力が強いため、一度「変数は日本語で」と指示すれば、その後の修正や追加コードでも日本語変数を使い続けてくれます。初心者にとって非常に扱いやすい「優等生」的なAIです。
一方、GeminiはGoogle Workspaceとの連携が強みですが、会話の文脈が途切れやすい側面があります。新しいチャットに移ったり、会話が長くなったりすると、突然英語の変数に戻ってしまうことがあります。そのため、Geminiを使う場合は、プロンプトの都度「変数は日本語で」という指示を入れるか、プロンプトのテンプレートにあらかじめ組み込んでおくことを推奨します。ただし、Geminiはコードの解説能力が高く、「なぜこの変数が必要なのか」といった質問に対しては、非常に分かりやすい説明をしてくれる「良きアドバイザー」となります。
コードへの抵抗感を減らす心理的効果:「これなら触れる!」
日本語変数がもたらす最大のメリットは、実は技術的なものではなく「心理的なもの」です。「英語だらけの怖い画面」が「日本語で書かれた手順書」に見えるようになると、不思議と「ちょっとここを変えてみようかな」という勇気が湧いてきます。
「『消費税率』という変数を0.08から0.1に変えればいいんだな」 「『メッセージ』という変数の文字を変えれば、表示が変わるんだな」
このように、自分でコードの一部を修正し、意図通りに動いたときの喜びは、開発者としての自信に繋がります。AIに100%作らせるだけでなく、最後の1%を自分の手で調整する。この経験が、あなたを「AIを使う人」から「AIと共に開発する人」へと進化させます。
メンテナンス性の向上:未来の自分とチームへの贈り物
今日書いたコードを、半年後の自分が覚えている保証はありません。ましてや、引継ぎを受けた後任者が英語のコードを解読するのは困難を極めます。日本語変数を使ったコードは、未来の自分やチームメンバーへの「親切な贈り物」となります。
「変数が日本語なんてプロっぽくない」という外野の声は無視してください。実務においては「誰が見ても処理内容が分かり、すぐに修正できること」こそがプロフェッショナルな品質です。AIを活用することで、可読性の高いコードをコストゼロで生成できるようになった今、これを利用しない手はありません。
また、日本語で書かれたコードは、エラーが出た際の原因特定も早くなります。「型が一致しません」というエラーが出たとき、エラー箇所に 日付 という変数と 金額 という変数が並んでいれば、「あ、日付に金額を入れようとしてしまったんだな」と一瞬で推測できます。
結論:「開発者」としてのマインドセット変革
本記事で解説した「日本語変数の活用」は、単なるテクニックではありません。それは、プログラミングを「専門家の特権」から「現場の共通言語」へと引き下げるためのマインドセットの変革です。
AIという強力なパートナーがいれば、構文を暗記する必要はありません。必要なのは、業務の流れを日本語で整理し、それをAIに伝え、返ってきた日本語のコードを読んで確認する力です。あなたはもう、コードが書けない人ではありません。「読めるコード」をAIに書かせ、それを指揮する「開発者」です。
次章以降では、この「読めるコード」をベースにして、さらに複雑な条件分岐や繰り返し処理、そして外部データとの連携といった高度な自動化に挑戦していきます。日本語という武器を手に入れたあなたなら、きっと恐れることなく進んでいけるはずです
の活用-「変数名は日本語にしてください」と指示-scaled.jpg)