Excel業務効率化のためのAI活用完全ガイド:止まらないマクロを作るエラー処理技術

エラー処理(Error Handling)の追加 を解説している男性
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エラー処理(Error Handling)の追加

AIを活用してVBAマクロを作成する際、多くの人が「動くコード」を作ることに集中しがちです。しかし、真に実務で使えるマクロとは、正常に動くときだけでなく、想定外の事態が起きたときにも適切に振る舞えるものを指します。ファイルが見つからない、データの形式が違う、計算結果がエラーになる。こうしたトラブルは日常茶飯事です。もしエラー処理が組み込まれていなければ、マクロは突然停止し、無機質な英語のデバッグ画面をユーザーに突きつけることになります。これは業務ツールとして不完全であり、時にはデータの破損や業務の混乱を招くリスクすらあります。

本記事では、AIへの指示出し(プロンプト)において、堅牢な「エラー処理」を実装させるための具体的なテクニックを解説します。「エラーが発生した場合はメッセージを表示して処理をスキップする」「異常終了時も画面設定を元に戻す」といった指示を加えることで、誰が使っても安心な、プロフェッショナル品質のツールを構築する方法を学びましょう。これは、あなたが「市民開発者」から、信頼される「開発者」へと進化するための必須科目です。

なぜエラー処理が必要なのか:業務停止とデータ破損のリスク管理

開発者としてVBAマクロを作成する際、最も恐れるべきは「想定外の停止」です。エラー処理(エラーハンドリング)が実装されていないマクロは、何か一つでも予期せぬことが起きると、その場で即座に動作を停止します。これが個人的なツールであれば再起動すれば済みますが、チームで共有するツールや、基幹システムに関わる処理であれば、事態は深刻です。

例えば、マクロが大量のデータを書き換えている最中にエラーで止まってしまった場合を想像してください。データは中途半端に更新された「整合性の取れていない状態」で放置されます。Excelの画面更新(ScreenUpdating)を停止していた場合は、画面が固まったまま操作不能になることもあります。さらに最悪の場合、重要なデータが消失したり、誤った値で上書き保存されたりするリスクもあります。また、マクロに詳しくないユーザーが利用していた場合、突然表示される英語のエラーメッセージ(デバッグ画面)は恐怖でしかありません。ユーザーはパニックになり、開発者であるあなたに問い合わせが殺到することになるでしょう。

こうしたリスクを回避するために、エラー処理は不可欠です。エラー処理とは、予期せぬ事態が発生した際に、プログラムを強制終了させるのではなく、あらかじめ決められた「安全なルート」へと誘導する仕組みのことです。「ファイルがないなら、ない旨を伝えて終了する」「計算できないデータがあるなら、その行を飛ばして次へ進む」といった制御を行うことで、システム全体の安定性を保ちます。AIにコードを書かせる段階でこの安全装置を組み込むことは、開発者の責任であり、品質へのこだわりを示す重要なポイントです。

VBAにおけるエラー処理の基本構造:On Error GoToの仕組み

AIに適切な指示を出すためには、まずVBAがどのようにエラーを扱っているか、その基本構造を理解しておく必要があります。VBAのエラー処理の主役は On Error ステートメントです。これには大きく分けて2つのパターンがあります。

一つ目は On Error GoTo ラベル名 です。これは「もしエラーが発生したら、指定した場所(ラベル)へジャンプしなさい」という命令です。通常、コードの末尾に ErrorHandler: というラベルを用意し、そこにエラー発生時の処理(メッセージ表示や後始末)を記述します。これは他のプログラミング言語における Try...Catch 構文に近いもので、処理全体を監視し、何かあれば一括して対応する場合に適しています。AIに対して「エラーハンドリングを追加して」と依頼すると、多くの場合このパターンが採用されます。

二つ目は On Error Resume Next です。これは「エラーが発生しても気にせず、次の行の処理に進みなさい」という命令です。非常に強力ですが、使い方を間違えるとエラーを隠蔽してしまい、原因不明のバグを生む危険な諸刃の剣でもあります。しかし、「特定のシートが存在するかチェックする(存在しないとエラーになる仕様を利用する)」といった限定的な場面では有効です。開発者は、この2つの違いを理解し、AIに対して「全体のエラー監視にはGoToを、部分的な無視にはResume Nextを使って」と使い分けた指示を出すことが求められます。

プロンプトエンジニアリング:AIにエラー処理を実装させる「呪文」

AIは指示されなければ、基本的にエラー処理のない「最短ルート」のコードを書きます。エラー処理を書くことはコードの記述量を増やし、構造を複雑にするため、明示的な要求が必要です。プロンプトには必ず、エラー処理に関するセクションを設けましょう。

具体的なプロンプトの例としては、以下のようなフレーズが有効です。 「コードの冒頭に On Error GoTo ErrorHandler を記述し、エラーが発生した場合は処理を中断せず、エラー内容と発生箇所をメッセージボックスで通知して適切に終了する処理を実装してください。」 「ユーザーがファイル選択をキャンセルした場合や、対象データが存在しない場合のエラー処理を含めてください。」

このように指示することで、AIはコードの構造を変化させます。メインの処理が終わった直後に Exit Sub を入れ、その後に ErrorHandler: ラベルとエラー対応コードを配置する、VBAの定石通りの構成を生成してくれます。また、「初心者にもわかるように」と付け加えれば、エラーメッセージを「実行時エラー ‘9’: インデックスが…」といった難解なものではなく、「指定されたシートが見つかりませんでした」といった親切な日本語にしてくれる配慮も期待できます。

止まらないマクロの実現:スキップ処理(Continue)の導入

大量のデータをループ処理で処理している際、たった1行のデータ不備でマクロ全体が止まってしまうのは非効率です。「エラーが出たデータは無視して、次のデータを処理したい」というニーズは実務で頻繁に発生します。しかし、VBAには他の言語にあるような Continue 文(ループの次へ進む命令)が標準では存在しません。そのため、AIに工夫したコードを書かせる必要があります。

プロンプトで次のように指示します。 「ループ処理の中でエラーが発生した場合は、その行の処理をスキップして次の行の処理へ進むようにしてください(On Error Resume Nextを活用するか、行ごとのエラーハンドリングを行ってください)。」 「エラーが発生した行については、処理をスキップし、ログ用シートにエラーが発生した行番号とエラー内容を記録して、最後にまとめて確認できるようにしてください。」

これを受けたAIは、ループの内側に On Error Resume Next を配置してエラーを無視させるか、あるいは行ごとの処理をサブルーチン化してエラーを隔離する設計を提案します。特に「ログを残す」という指示は重要です。ただスキップするだけでは、どのデータが処理されなかったのか分からなくなるため、エラーログを出力させることで、「止まらない」かつ「管理できる」システムを構築できます。

ユーザーインターフェースとしてのエラーメッセージ

エラーが発生した際、ユーザーに何を表示するかは、ツールの使い勝手を大きく左右します。AIがデフォルトで生成する MsgBox Err.Description だけでは、ユーザーは何が起きたのか、どうすればいいのか分かりません。開発者として、ユーザーに寄り添ったメッセージを表示させるようAIに指示しましょう。

プロンプト例: 「エラーメッセージは、システムのエラー内容だけでなく、『何が原因で』『次にどうすればいいか』が分かる日本語の文章にしてください。例えば、『ファイルが見つかりません。ファイル名を確認して再実行してください』などです。」 「想定されるエラー(ファイルなし、データなし)については、個別にIf文でチェックし、わかりやすい警告メッセージを出してから終了するようにしてください。」

AIは文脈を理解して、コード内で発生しうるエラーを予測し、適切なメッセージ文言を生成してくれます。単なる「エラー」ではなく、「入力された日付が正しくありません」や「集計対象のデータが0件です」といった具体的なフィードバックを返すことで、ユーザー自身で問題を解決できるようになり、開発者への問い合わせ負担も軽減されます。

状態の復元:Finally処理の重要性

VBAマクロでは、処理速度を上げるために Application.ScreenUpdating = False (画面更新の停止)や Application.Calculation = xlCalculationManual (自動計算の停止)を設定することが一般的です。しかし、エラーでマクロが途中終了した場合、これらの設定が「停止したまま」になってしまうことがあります。すると、Excelの画面が描画されなくなったり、数式が計算されなくなったりして、ユーザーは「Excelが壊れた」と勘違いします。

これを防ぐために、プロンプトで「終了処理(Finally処理)」を明示します。 「エラーが発生した場合でも、正常終了した場合でも、必ず最後に画面更新や自動計算の設定を元の状態(True/Automatic)に戻す処理を入れてください。」 「コードの構造を、初期化処理、メイン処理、終了処理、エラー処理に分け、終了処理が必ず実行されるようにしてください。」

AIはこの指示に従い、エラーハンドラの中に Resume 命令を使ったり、終了処理用のラベルを用意してそこへ誘導したりするコードを書きます。どんな終わり方をしても、最後は必ず「お片付け」をしてから終わる。この作法をAIに徹底させることで、副作用のない安全なツールが完成します。

外部連携時のエラー対策:ファイル操作とWeb連携

外部のブックを開いたり、Webサイトからデータを取得したりする処理は、相手先の状況に依存するためエラーが起きやすい箇所です。ファイル名が変わっている、サーバーが落ちている、ネットワークが切れているなど、自分ではコントロールできない要因で停止します。

こうした処理をAIに書かせる場合は、特に念入りなエラー処理を要求します。 「指定したファイルが存在しない場合、Dir関数やFileSystemObjectを使って事前にチェックし、存在しない場合は処理を行わずにメッセージを出して終了してください。」 「Web APIへの接続に失敗した場合や、タイムアウトした場合は、エラーで停止させず、『接続できませんでした』と表示して処理を抜けるようにしてください。」

AIは On Error に頼るだけでなく、事前の If Dir(FilePath) = "" といった存在確認コードを追加してくれます。エラーが「起きてから対処する」のではなく、「起きないように事前に避ける」ロジックを組むことで、マクロの堅牢性は飛躍的に向上します。外部連携におけるエラー対策は、システムの信頼性に直結する重要な要素です。

無限ループの防止:DoEventsと安全装置

Do WhileFor ループを使う際、条件設定を誤ると処理が永遠に終わらない「無限ループ」に陥るリスクがあります。特にAIが生成したコードは、論理的な条件ミスを含んでいる可能性がゼロではありません。無限ループに入るとExcelが応答なしになり、強制終了するしかなくなります。

これを防ぐための安全装置をプロンプトで指示します。 「ループ処理を行う際は、万が一の無限ループを防ぐため、ループ回数が1万回(または適切な上限)を超えたら強制的にループを抜けるカウンター処理を追加してください。」 「ループ内には DoEvents を記述し、処理中でもOSに制御を戻して、Escキーなどで中断できるようにしてください。」

この一行の指示があるだけで、AIはループ内にカウンター変数を設置し、上限チェックを行うコードを追加します。開発中のテストで意図せず無限ループに入ってしまった場合でも、この安全装置があればExcelごと落ちる最悪の事態は回避できます。

AIにデバッグさせる:エラーが出た時の修正フロー

どれほど注意深くプロンプトを書いても、エラーは発生します。しかし、エラーが出た時こそAIの出番です。エラー画面が表示されたら、慌てず騒がず、その情報をAIにフィードバックしましょう。

「以下のコードを実行したところ、実行時エラー ‘1004’ が発生しました。エラーが発生した箇所は Range("A1").Value = ... の行です。原因を推測し、修正したコードを提示してください。」 「データ型が一致しないというエラーが出ます。変数の宣言部分とデータの代入部分を確認し、型変換(CLngやCStrなど)を使ってエラーが出ないように修正してください。」

AIはエラーコードと発生箇所から原因を特定し、修正案を提示します。時には「シートが保護されている可能性があります」「セルの結合が邪魔をしています」といった、コード以外の原因を示唆してくれることもあります。エラー対応のプロセス自体をAIと二人三脚で行うことで、デバッグにかかる時間を大幅に短縮できます。

テスト用コードと本番用コードの使い分け

開発中はエラーの発生箇所を特定するために、あえてエラー発生時にデバッグモードに入る(コードの該当箇所で止まる)方が便利な場合があります。一方で、ユーザーに配布する本番用コードでは、デバッグ画面は見せたくありません。

AIに対して、「開発中はエラー箇所で止まるようにしたいですが、本番運用時はメッセージを出して終了するようにしたいです。この切り替えが簡単にできるような構成にしてください」と依頼するのも一つの手です。 AIは、コードの冒頭に Const IsDebug As Boolean = True といった定数を定義し、エラー処理部分で If IsDebug Then Stop Else MsgBox... と分岐させるような高度な実装を提案してくれるでしょう。これにより、開発効率と運用時の安全性を両立させることができます。

開発者としてのマインドセット:悲観的に準備し、楽観的に実行する

エラー処理を実装するということは、「うまくいかないかもしれない」という前提に立つことです。これはネガティブな思考ではなく、プロフェッショナルなリスク管理です。開発者は、正常なデータが来ることだけを期待してはいけません。空のデータ、文字化けしたデータ、削除されたシートなど、あらゆる「異常」を想像し、それに対する防波堤をAIに築かせる必要があります。

AIは指示されたことしか守りません。「エラー処理を入れて」と言わなければ、無防備なコードを書きます。あなたが「ここが危ないかもしれない」と先回りして制約を与えることで、初めてAIは堅牢なコードを生み出します。エラー処理の厚さは、そのツールの品質そのものです。

結論:信頼されるツールへの最終仕上げ

エラー処理の実装は、VBA開発における「仕上げ」の工程であり、最も重要な品質保証プロセスです。どんなに便利な機能を持っていても、頻繁に止まったり、データをおかしくしたりするツールは誰も使ってくれません。逆に、何かあっても適切にメッセージを出して安全に止まってくれるツールは、ユーザーに安心感を与えます。

AIを活用すれば、面倒なエラー処理の記述も、プロンプト一つで自動生成できます。On Error 構文、メッセージ表示、設定の復元。これらの要素を忘れずに指示に含めることで、あなたの作るマクロは「単なる自動化スクリプト」から「信頼できる業務アプリケーション」へと昇華します。次章以降では、さらに高度な機能の実装に進みますが、このエラー処理の考え方は、どのような複雑なコードを書く際にも常に土台となるものです。常に「止まらない、壊さない」ことを意識して、開発を進めていきましょう。

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